教育力の復活
先日、春期講習前に能見台校で教員対象の研修会を開きました。その中で、説明資料として配付したリーフレットをブログにも掲載します。テーマは「教育力の復活」 春期講習だけではなく、今年度のテーマにしました。ブログ用に書いたわけではありませんので、不明な点もあるかも知れません。學志館を理解して頂く一助になればと掲載させて頂きます。
最初、先生全員にシートに取り組んでもらいます。各先生の理想と思う教育についてお書きくださいという問いから始まり全部で4問ほどの質問です。そのシートは集めず
(社員のは回収)自由に書いてもらう。その後、リーフレットの説明に入りました。
内容アウトライン
⑴教育力とは?
⑵教務力について
2−1英語教科指導について
2−2国語教科指導について
2−3数学教科指導について
⑶教育力(狭義)とは?
⑷教育力(広義)について
⑴教育力とは?
教育力(広義)は、教務力と教育力(狭義)から成り立ちます。
⑵教務力について
教務力は、教科を教える力。学校の内容に沿って定期試験で良い点数を取ることばかりを教えるのではなく、教科の基礎力を身に付けさせます。その基礎力の内容は、基本レベルで易しいことを指してはいません。その基礎力が身につけば応用問題も楽々解ける基礎力のことです。
次に各教科の教務力を私たちはどのように捉えているかを見ていきます。
2-1英語教科指導における教務力
会話的文章の多い現在の中学校英語教科書は「実際に使える英語」に近い構成になっています。以前、当時の公立学校英語教育に対する「6年間英語を勉強しているのに、実際の場面ではまったく役に立たない」という批判への反省から実用面を重視した英語教科書に変ってきました。あくまで公教育としての英語教育であるため、その点の重視はメリットにもなります。自分が中学生であった頃の物語中心の読解英語からの変更は、中学生が英語を良く口にする事が普通になってきた点では成功しているとも言えます。
しかしその反面、高校段階の英語へ進むことも前提に考えると英文法の体系的学習の軽視はデメリットになります。そのため、学校でコミュニケーション中心の英語を学習し、塾では体系的な英文法(学校では教えない5文型や関係代名詞の格等)を学び、英語と日本語の文章構成の違いを論理的に理解します。その両面を生徒が学習することで、実用的且つ体系的に外国語としての英語を学習することができます。後者の学習を塾が担うことでバランスの取れた英語学習になり、所謂、英語の基礎力を身に付けることができます。
この方針は中学生の英語教育ばかりではなく、必修となった小学校の英語教育にも適用することが可能です。リスニング・スピーキングを中心とする、体感英語を導入としながらも、できるだけ自然な形で英語構文の学習を取り入れていきます。文法用語は最小限としながらも、国語教育でも学習する主語・述語関係の理解は必修になります。単文を丁寧に学習することで無意識にも英語構文と日本語構文の違いを区別できるようになれば、中2の不定詞以降に学習する後置修飾が理解しやすくなります。
英語教務の方針であり、具体的適用に関しては一例です。英語の基礎力とはあくまで学習者である生徒自身の内側に形成されるものであり、何をその内に形成するかをより明確に意識することで、形成されるもの自体の形状も異なったものとなります。
今後は上記の「教務力における英語教育」の実際面についても検討していきます。
2-2国語教科指導における教務力
国語は語彙力と読解力
語彙力は漢字の読み書きだけではなく、書き順・音訓・編と旁・四字熟語・熟語の構成等の学習を漢検ステップを教材に毎週漢字テストを行い語彙力の定着を図ります。1年に1回、教室で漢字検定を受検することも励みになります。また、毎月送られてくる漢検ジャーナルを配布します。漢字についての様々なニュースに触れることができます。*別紙「漢字学習マニュアル」参照
読解力は『論理エンジン』テキストを使用します。学校の教科書には詩・小説・紀行文・説明文・論説文・古文など多様な文章が掲載され、生徒たちはそれらを各学年ごとに学習するわけですが、日本語は普段使っている言語なので分かった気になり、文章を正確に読解し記述するための体系的な学習法に沿って学習しているわけではありません。文章を多く読む生徒は国語は得意であり、そうでない生徒は不得意と単純な構図が当てはまっているかも知れません。しかし、どんな種類の文章にも一貫した筋道があり、その展開には一定のルール(規則性)があるという考えのもと、作り出された『論理エンジン』、特に中学生以降が使用する『論理の習得』(上下巻)は国語が得意な生徒も不得意な生徒も国語学習をフラットな地点から、つまり、同じスタートラインに立って学習し始めることができます。国語の苦手な生徒が『論理エンジン』は面白いと言ったり、「今まで自分はあまり考えないでしゃべってきたがエンジン始めて、考えてから話すようになった」と言う感想を今まで多く聞いてきました。
また、エンジンは大学生が簡単に教えられる教材ではありません。経験のある教師が教えて始めて効果を発揮する、教える側にとっても難易度の高い教材です。
2012年度より『論理の習得』は新版に改訂されました。エンジンを教える教員の定期的な研修も今後行っていきたいと思います。
*學志館HP 国語 「學志館の国語指導方針」の「論理的思考力を育てよう!」参照
2-3算数・数学教科指導における教務力
學志館における算数・数学の授業では単に問題が解けるようになることのみを目的にせず、別に身につけさせたい力があります。そのいくつかを以下に説明します。
(能勢正人)
解き方を考える力
小学生の算数と中学生の数学における学習の重点はだいぶ異なるので、分けて整理します。
小学生に教えることのうち最も大切なのはテクニックではなく、現実の世界と言葉、図表、数式を結びつけることです。また、普段から考えるくせを付けなければいけません。そのためには、もちろん九九や筆算など純粋に技術的な部分や定義は機械的に身につけさせることも必要ですが、できうる限り数式や定理、結論的な解法から出発せずに教えられることが理想です。たとえば、10×3ができない生徒がいれば、3に0をつければいいと教えるのではなく、10円玉が3枚でいくらと聞くことから始めることで、初めてその生徒は10×3という式の意味が理解できるはずです。なるべく、結論を教えるのではなく、生徒が自ら解法を導けるよう、対話のある授業を行う必要があります。また式だけで説明を構成せず、図や表を用いて説明することで、生徒たちもまねて自らいろいろ考えていくようになるはずです。
その認識の上で算数の得意な生徒には試行錯誤の練習や問題解決手段の拡張のために、学校では扱わない内容(数列や○○算・推理など)も随時取り上げることも有用です。
一方中学生は段々と定理が出発点になっていきます。代数においては移項のように、その意味に立ち戻ることなく、約束事のみで計算していくことになり、幾何においては円周角の定理や三平方の定理のように、普段はそれがなぜかを考えずに扱います。これらはいわば道具のようなものであり、これらの道具を組み合わせて問題解決に向かう力が中学の数学における応用力になります。ですから、この応用力の訓練を十分に行えるようにするためには、まず道具にあたるところを当たり前のようにすばやく使える状態に持って行く必要があります。そこで、計算について暗算と筆算のバランスを取ること、説明のための途中式と計算に必要な途中式の違いを明らかにすること、相似における比例式や三平方の計算において必要以上に方程式に頼らないこと、平方根を簡単にする時に素因数分解に頼らないことなどを留意してください。その上で普段から公立入試レベルの問題に取り組むようにします。
自分でミスを無くせる力
算数・数学には計算ミスという言葉が有り、これを無くしていかなければいけません。しかしどのような間違いをしたか教師が指摘する、あるいは生徒自らが分析することだけでは無くなりません。ミスをしないよう生徒が留意しながら問題に取り組む姿勢を付けることが必要です。その過程を具現化するために、授業後あるいは授業中、学習ノートにその留意点を自分で書かせるくせを付けてください。
発言をする力
一方通行の授業ではなく、双方向の授業を理想としています。従来の問題を解くだけの力を育てるような指導は行はず、その生徒が学力をどう生かせるかを考え授業の組み立てを行います。問いかけを多く発する授業を行うために、自分の意見を言える授業に組み立てます。また、わからないことはわからないといえる環境をつくり、生徒が納得するまで指導できるようにします。自分の意見や疑問点を言えてこそ、本当の学習力が身につくと考えています。
今年度の数学・理科の留意点
中学で新教科書導入のため、教科書会社が変わっています。特に、能見台の数学中3は従来平方根から入っていたものが、展開から入ります。授業を進める順序や定期テストの過去問の扱い時に注意してください。また、理科については、上下巻それぞれ1分野・2分野の分冊から学年ごとの分冊になります。
⑶教育力(狭義)について
生徒に勉強する姿勢を身に付けてもらう。2点あります。ルーティンワークのように日常的に繰り返し行う事に対し、自然に取組める姿勢と学ぶことに興味関心を持ち、学習することで自分の世界が広がる、人間として成長できる事に結びつく学習姿勢。
前者の姿勢は、毎朝起きたら顔を洗う、歯を磨く、トイレを使ったら手を洗うという日常的な繰り返しの行為のように、すること自体を意識せずにできることが理想です。明日は国語の授業があるから漢字テストの準備をする、宿題をする、、毎回の授業で宿題・小テストを必ず出すことは生徒の学習姿勢を構築する上で欠かせない働きかけになります。更に宿題を出すだけではなく、出したからにはそれへの取組み姿勢を確認しなければなりません。そのなかには、宿題忘れのペナルティーとして居残り学習や小テストの再テスト(来週までの宿題を半分してから帰宅、小テストは9割以上で合格。それ以下は居残り再テスト、、できるまで帰れない〜 生徒・クラス状況に応じて居残り学習の内容は変えることが必要。ただし『漢字学習マニュアル』中の「実際の対応」には十分留意してください)を生徒に義務として課さなければなりません。
また、『学習ノート』への毎授業後の取組みも、姿勢を構築するためのキーポイントになります。『学習ノート』に自ら取組める生徒は宿題・小テストの準備を忘れてくることはなく、学習姿勢の半分は出来上っていることになります。逆に取組めない生徒は最後までこの学習姿勢が習慣化して身についていないため、宿題を忘れたり、小テストの準備をしてこないで再テストを受けたりが、生徒の学習レベルの高低にかかわらず繰り返します。『学習ノート』の理想型は授業終了時に生徒自らそのノートを出して、「先生、宿題は?テストは?」と聞いてくることです。更には「今日の授業ポイントは〜で良いですか?」まで行けばパーフェクトです。授業は安定し、生徒との信頼関係も良くできている状態です。以上の状況を作り出せる力は教師の教育力です。すぐにはこのクラスはそうはならないが、半年〜1年後には必ずそういう状態に持っていきたいと想い、生徒に向い合ってもらいたいと思います。
もう一つの生徒の中に育むべき学習姿勢はこれまで述べてきた学習に関わることの最終目標になります。最も重視したいことですが、これまでの教務的努力や教育力が前提になります。
学習への取組みが、テスト・試験・入試のためという狭い範囲の動機づけに縛られていない学習姿勢です。それらを動機に学習への取組みを発動させると、目先の目標がなくなれば学習する動機は失われます。新たな、目標を見つけなければなりません。その動機づけの欠点は目標到達後消失する事だけではなく、更に大きな問題として、そういう動機に基づいて学習する期間が長ければ長いほど、目先の目標のために学習する習慣が身についてしまう。すると学習・勉強に興味関心を求めることができなくなり、効率的な目先の目標設定ばかりで、本人にとり本当の新たな目標を見つけることがますます難しくなる。その結果、ニートの様な若者が増えている、、というのは推測ですが、結びつくようにも思われます。そういう意味で今、先生の眼前にいる生徒は単に勉強をしているだけではなく、学習姿勢も日々構築しつつあり、それがその生徒の今後の生きる姿勢までに影響を与えているかも知れないとどこまで思うことができるか。それを気遣い、予想して生徒に向い合えるかが、教師の教育力になります。
教師の教育力の視点として、教師の「指導力」よりも「内的深化」が鍵になり、知識の切売りする教師よりも、「ものの見方・考え方」の深化を促すこと、外から詰込むよりも、内から引き出すこと、How(方法・手段)の重視から、What, Why(目的・動機)重視の教育を大切に思います。
そのためには教師自身の「指導力」重視の視点から「内的深化」の視点に移る必要があります。ぐいぐいと生徒をひっぱって勉強させることよりも、生徒自らが勉強に取り組むように気づかせる。
現状は「指導力」重視であり、知識の切売り、外から詰込む、How(方法・手段)の重視ですが、それを「内的深化」「ものの見方・考え方」の深化、内から引き出す、What, Why(目的・動機)重視の教育に転換していくか。それが教育の質的な発展です。
學志館は、現状のニーズに基づいた教育の限界を認識しつつ、教育の質的な展開を求めて、それを理想として歩んでいきたいと思います。
⑷教育力(広義)について
最後に、
広義の教育力とは上記に述べてきた教務力と教育力(狭義)が共に育まれた段階で実現されるものです。
教務力は各教科の専門性を生かし、生徒に学科を学ぶことは単にテストのためではなく自ら知り探求する喜びをその中に見いだすことができる営みであり、生徒の人間としての生き方のよりよき鋳型を作ることにも影響を与えます。
教育力(狭義)は単なる精神論ではなく、学習する機会を通して生徒の内側に人間としての成長を大切に育むべきであり、そこから本当のエネルギーが出てくるという視点を持っています。
今後、學志館教育の理想として提示し、実現していきたいと思います。
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