都麦出版の鳥居 実氏のメルマガ「ムッシュトリイのよもやま話」に興味深い論説が載っていたので掲載させてもらいます。
2020年の入試改革に向けて、グローバル〜グローバル〜新傾向にマッチしたとする教育内容の喧伝が多い中、本当にその方向で良いのかを今一度確認する論説であると思われます。教育の本質をもう一度原点から考え直す時期に今は来ているからこそ、可変性の強いメソッドを追いかけず、わが子にとって何が本当に大切かを考えて頂きたいと思います。
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(1)「記述式」の暴走が心配だ——あわてるな大学入試改革
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論説副委員長 大島三緒
2020年に間に合うかどうか——。といっても、東京五輪・パラリンピックのメーンスタジアムとなる新国立競技場の話ではない。
新たなデザインが決まった「新国立」建設も綱渡りだが、それにも増して難しそうな「20年問題」がある。新しい共通テスト(仮称・大学入学希望者学力評価テスト)を導入する大学入試改革だ。
文部科学省の「高大接続システム改革会議」が示すスケジュールによれば、新テストはいまの中1が受験する20年度から始まり、24年度以降は新学習指導要領に対応していくという。ところが肝心の中身が揺れ動いている。
現行の大学入試センター試験を廃止し、もっと論理的思考力や問題解決能力を測れる内容に改める。同時に各大学ごとの試験を丁寧なものにする。こういう方向性はかねて打ち出されていた。
その延長線上で、改革会議がこだわっているのが、いわゆる「記述式問題」である。
たとえば、交通事故の統計資料に基づく議論を紹介しつつ、想定される主張を書かせる。図書館のあり方についての新聞記事を読んで、自分の考えを展開する——といった具合だ。とにかく文章を書かねばならないから、マークシート式より思考力をつかみやすいのは確かだろう。
しかし、課題はあまりにも多い。こんな手間のかかる問題を毎年毎年つくり続けられるか、50万人を超す膨大な受験生の解答をどう読み込み、公平に採点するのか。そのための労力と時間は……。
ならば、と文科省が検討しているのが、記述式試験の日程を現行のセンター試験より前倒しする案である。
新テストのうちマークシート式の試験は現行に近い日程で実施するが、記述式は早めに済まして採点作業の時間を確保しようというのだ。遅くとも10月、念入りな採点には8月が望ましいという。
つまり受験生は夏から秋にかけて記述式、正月ごろにマークシート式、2〜3月に各大学の個別試験に挑むことになる。記述式の試験のために全体のスケジュールが長期化し、誰もがひどく疲弊すること必定だ。なんとも奇妙な本末転倒の展開である。
ここは原点に戻って考えなければなるまい。
そもそも新テストの導入構想は、13年秋の教育再生実行会議の提言に始まる。そのときの大枠は(1)センター試験のような一発勝負型の選抜から何回か受けられる試験へと転換する(2)各大学が個別の2次試験を抜本改革する——といったものだった。
「共通テストはなるべくスリム化を図る。そのうえで、受験機会を複数化するのが基本的な認識だった」と関係者のひとりは言う。「ところが、その後の議論は記述式導入など理想論に傾いていった。話が進むほどに理念が『先鋭化』している」
センター試験の弊害を省みてスリム化をめざしたはずの新テストが、受験生にも高校・大学にも負担の重いものになっていくとすれば、新国立競技場の旧計画なみの暴走というほかない。当初めざした「受験機会の複数化」も不可能になるだろう。
思えば、選抜の歴史は改革と挫折の繰り返しだ。戦前の旧制高校の入試は猫の目のように変わった。戦後も共通テストのさきがけである「進学適性検査(進適)」や共通1次試験を経て、現行のセンター試験にたどり着いた。
もっと思考力を問いたい。もっと知力をトータルに測りたい。入試制度改革の狙いはいつの時代も同じだが、失敗もまた多いのである。
昭和20年代に7年間続いた「進適」について調べると、その思想が今回の新テストと似通っているのに驚く。推理小説のような設定で事件関係者の証言を列挙し、そこから導かれる推定を答えさせるなど実にユニークな出題が多い。まさに論理的思考力を問おうとしたのだろう。
それでも結局は弊害がいろいろ出てきたうえ、受験産業が対策づくりに乗り出して理念倒れに終わった。こんどの記述式試験も、必ずや「書き方のコツ」などが伝授されるだろう。あまり共通テストに理想を求めても見透かされるだけではないか。そこは歴史に学ばねばならない。
改革会議は今年度中に最終報告をまとめるというが、このまま見切り発車で記述式を導入すれば大いに禍根を残すだろう。ここまで混迷しているからには「2020年ありき」で急ぐべきでもない。個別試験の充実とセットで、改革を仕切り直すときである。
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