平成24年度からの公立高校入試制度改革
*以下の内容は「神奈川県公立高等学校入学者選抜制度改善方針 説明資料 平成23年12月 によります。
平成24年度から学習指導要領が改訂となり、神奈川県公立高校入試制度も現中2から変わります。
ここでは神奈川県の高校入試制度改革のポイントを述べてみます。
次の4点に集約されると思います。
1. 共通選抜(入試)に一本化し、面接も全員必修
2. 50点満点から100点満点に。よりきめ細かく学習成果を測定
3. 全5教科に記述問題を出題
4. 特色検査の実施
⑴実技検査・・・美術・英語・体育・音楽関連の学科には1人50分の実技
⑵自己表現検査・・・「与えられたテーマに基づく作文」(50分で600字以上800字以内 で記述)「与えられた課題に対して、提示された資料を活用した記述」(50分で800字 程度で記述)特に後者の「資料を活用した記述」については、
(以下、引用)「総合的な学習の時間で「自然環境と人間のかかわり」について調べ、発表するという想定で、提示された複数の資料(説明文、データ等)をすべて活用し、発表者の立場になって、自分の考えを50分で800字程度で記述する。」
まとめると ☞ {入試+面接+調査書}+特色検査 で合否を決定します。
形としては、国公立大学入試のセンター試験と2次試験に似ています。センター試験は共通問題による入学試験、2次試験は特色検査に。面接と調査書はAO入試? それを1日でやってしまおうとするのだから主催する方は大変かも知れません。
各項目の実際の配点を見てみます。
入試・面接・調査書を各100点に換算し、それぞれに2以上の整数をかけます。3つの整数合計は10。例えば、入試を6,面接を2,調査書を2にすると合計で10。その整数が比率になります。入学試験の比率を高くしたければ最大で6(割)に。現行と同じです。調査書が面接を加えた分、調査書自体の比率は下がりますが、その内容を高校側が面接で確認すると考えれば、今までよりも選抜方法が良くなった印象を受けます。入試5割、面接・調査書で5割の場合も、上記と同じです。より高校側に選抜の精度を上げてもらう選抜方法に改革されたと、現時点では考えたいと思います。
それに加え、特色検査は興味深い検査です。高校側に実施する特色検査の選択権を与え、前記3項目に加えて、100点換算したものに5を上限とする整数をかけるというもの。この結果、調査書からなくなった、「活動の経歴や役職、大会等の記録、各種資格の取得等、活動実績の点数化」や「参考事項」欄(主に学校外での実績を記載)と「特記事項」欄(20%の中学生に記載)を、特色検査の⑴実技検査で直接確認することになります。従来、中学校側の記載を丸呑みして点数化していたものを、高校側が自分たちで評価できるシステムに改善したと考えられます。
特に上記した、⑵自己表現検査の中にある「与えられたテーマに基づく作文」「与えられた課題に対して、提示された資料を活用した記述」は、独自入試がなくなった代わりに上位校が実施すると予想されるものであるし、実施すべきものです。論理的思考力・読解力・記述力の育成に教育の軸が移り「詰め込み教育」でも「ゆとり教育」でもない、「生きる力」を大切にしようとする方向に向きを変えたというくらいの大きな挑戦ではないかと思われます。
全体として、神奈川県の高校入試改革は全国的な流れである前・後期という2回の受験機会を1本化する傾向と歩調を合わせています。前期推薦で入学する生徒と後期入学試験を受けて入学する生徒に学力差が生じていることが原因のようです。もともと受験機会を2回にしたのは、成績が良いのに1回の試験で実力を発揮できずに落ちてしまうのはかわいそう?ということや入試激化の緩和?とかいうものであったらしいのですが、教育内容はゆとり教育(2002年度学習指導要領改訂で本格実施)の影響で削減されてきました。結果、日本という国単位で学力の低下を招き、その立て直しとして、「詰め込み」でも「ゆとり」でもない「生きる力」を目標に掲げた学習指導要領が2012年度から実施されます。
こういう流れの中から考えると、来年度からの神奈川県の公立高校入試選抜制度の改革はまさに改善という方向にあるように思われます。
ここ数年、小手先の制度変更を重ね、制度的に緩みが出始めていると感じていた分、今回のような改善は従来とは違った改革と捉えたいと思います。懸念があるとすれば、実際の運用面で面接等の機会や特色検査をどれだけ有効なものとして生かすにかかっています。全員を面接し、800字の記述を採点する労力は独自入試作成に劣らず大きなエネルギーを必要とするでしょう。その辺のフォローを県や市単位でどれ程できるかもまた、この制度改善が軌道に乗るか否かを決定する要因になります。失敗すればまた、小手先の変更を繰り返し、そのたびに一貫したものを築くことのできない公立学校教育への落胆とも繋がり兼ねません。今回の制度改革は公教育の復権を目指したものと捉えたいと思います。
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